自治体が進めるゾーニング事例 〜その1. 島根県平田市〜

 FB's Societyが考える「ゾーニング」実現のためのキーワードに、「地元とのコンセンサス取り」というものがあります。つまり、地元あるいはその水体に関わる多様な人々との話し合いをもとに、その水体とバスの関わり方を模索していこうという考えです。今回、自治体側からこれを進める二つの事例についてご報告します。まず一つは島根県平田市、そしてもう一つは僕の故郷、大阪府です。ここでは平田市の事例についてお話を進めていきます。

 平田市は島根県の東北部、斐伊川の下流、出雲平野の東北端に位置し、市内を貫流する船川と宍道湖の水運を利用して古くから松江、境港方面との交流が行われてきた街です。出雲国風土記に楯縫郡沼田郷とあるのが現在の平田町付近で、徳川末期から明治初期にかけ木綿の集散地として栄えてきました。人口は約29,000人です。現在、バスは平田船川と湯谷川という市の中心を流れている小河川と、市内のため池に入っているそうです。
 この平田市で去る平成14年2月17日日曜日、在来魚の保護などをテーマにした「水辺からの環境を考えるシンポジウム」が開催されました。このシンポジウムの内容を簡単にご報告します。基調講演では北海道大学の中尾繁教授と東京水産大学の水口憲哉助教授が講演されました。中尾教授は、「外来魚は在来魚保護の蚊帳の外?」と題し、バスなど外来魚の増加と在来魚の衰退の相関と今後の対策について講演されました。水口助教授は、「シジミ湧く宍道湖斐伊川水系を維持するために」と題して、生物多様性の観点から宍道湖の生態系の維持について考察されました。基調講演のあとパネルディスカッション「外来魚を考える」が行われ、中尾教授、水口助教授をはじめ、島根県在来魚保護協会の越川繁樹理事、宍道湖漁協の高橋正治参事、小村漁具の小村憲司さん、釣り人として梅澤徹さんらがパネラーとして登壇し、中村幹雄水産学博士がコ−ディネ−タ−役を務められました。参加者は漁業関係者や釣り人を含めて約60人。(※参考、島根日日新聞朝刊2002年2月16日)

 このパネルディスカッションの内容をご報告する前に、このシンポジウム開催に至った背景について触れておきます。
 平田市ではもちろん、このシンポジウムにおいてもキーパーソンとなる人物、太田満保市長のお考えがこの平田市のバス問題の行方を左右しているようです。太田市長は、河川や湖沼に生息する希少魚などの保護活動に取り組む目的で設立されたNPO(特定非営利活動)法人、「島根県在来魚保護協会」の理事長を務められており、以前より在来魚保護に積極的な人物です。「島根県在来魚保護協会」(以下、県在来魚保護協会)についてもう少し補足いたしますと、発足は2000年08月19日、松江市内のホテルで行われた設立総会から(写真左)。県内の河川に生息する淡水魚や水性昆虫の保護を目的に、淡水魚や渓流釣りファンに対し平田市の太田市長・安来市の島田二郎市長、県内水面水産試験場の中村幹雄場長らが私人として発足を呼び掛けて、当時、賛同者42人を集めています。 (※参考、中国新聞朝刊2000年08月20日、山陰中央新報2000年8月20日)
 公式サイト「島根県在来魚保護協会を紹介するページ」(http://homepage2.nifty.com/0430/s-zairai/zairai.htm)に紹介されている協会の目的を、以下に抜粋します。


(協会の目的)
 島根県在来魚保護協会は、島根県内に生息する魚、水生昆虫、貝、甲殻類等(以下「在来魚等」という。)の保護に関する事業を行い、よって島根県内の多様な生態系の保全に寄与することを目的とします。
 島根県在来魚保護協会は次の各事業を行います。

  在来魚等の種の保護
  在来魚等の研究、調査
  在来魚等の生息地の保護及び保全
  在来魚等の保護及び生息環境の保全についての啓発
  在来魚等の保護に関して行う指導、助言

 以上の事業を会員の皆様や他の機関と連携して行っていきます。


 こういったバックグランドをお持ちの太田市長は、2001年3月5日、在来魚種の保護を目的に、外来魚種を対象にした放流禁止条例の制定を検討していることを明らかにしました。ちょうど国土交通省の外来種影響・対策研究会が、外来種の駆除を含めた対策案を固めた頃で、平田市としても罰則を設け、バスなど釣った外来魚の再放流も禁止する考えを示し、三月定例市議会で一般質問に答えました。
 当時の新聞記事(山陰中央新報2001年3月6日)を以下に抜粋します。


山陰中央新報2001年3月6日
平田市が外来魚種の放流禁止条例を制定へ
 平田市の太田満保市長が五日、在来魚種の保護を目的に、外来魚種を対象にした放流禁止条例の制定を検討していることを明らかにした。国土交通省の外来種影響・対策研究会が、外来種の駆除を含めた対策案を固めたばかりだが、同市は罰則を設け、ブラックバスなど釣った魚の再放流も禁止する考えを示している。三月定例市議会で一般質問に答えた。同市では、市街地を流れる平田船川で、米国原産のミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)が、在来種のイシガメなどを脅かす勢いで増えているのが確認され、ブラックバスなどについても「急激に増えている印象」(太田市長)という。
 島根県は、県漁業調整規則で「外来魚の移植制限」を設け、ブラックバスやブルーギルなどの移植を制限。県単位では規制を設けているところが多いが、市町村単位では「全国的にも珍しい取り組み」(同市)。
 太田市長によると、同市全域の河川や湖沼で、ペットの放流や釣った魚を放すキャッチ・アンド・リリースも含めて禁止する。どの程度の罰則規定を設けるかは、担当課で検討しているという。太田市長は「できるだけ早く導入を図るべきだ」との見解を示している。
 同市は、新年度から外来種の生息実態や影響など基礎調査に着手するほか、県規則などとの擦り合わせや、釣り人や自然保護団体の理解など導入に向けた課題に取り組む考えだ。


 こういった背景のもと、関連する各分野の方を招いてコンセンサスを取るため、2月17日のパネルディスカッション「外来魚を考える」は開かれたものと考えられます。
 太田市長は冒頭で「豊かな水辺環境取り戻したい」と強調され、水質保全とともに、在来の魚などを補食し生態系を乱す恐れがあるブラックバスやブルーギルなどの外来魚の放流、釣り人のリリース禁止を盛り込んだ総合的な水辺環境保全条例を提案する考えを示されました。
 パネルディスカッションでは開発に伴う環境面の問題や、外来魚が在来種に与える悪影響を懸念する意見が出された反面、「子どもが釣りを通じて自然と親しむ環境を奪うべきではない」、「安易にキャッチ&リリースを禁止するのは、目的なく生き物の命を奪うことにつながる」との声もありました。これに対して太田市長は、「子どもが楽しめる釣り場環境をつくりたい。公園機能の一部として考えている」、「別に釣り場を設け移し替えることを考えている」とすみ分けを考慮する考えを示されたのです。 (参考、山陰中央新報2002年2月18日、朝日新聞島根地方版2002年2月18日、島根日日新聞2002年2月18日)
 
 先述のように釣り業界側からは小村漁具の小村憲司さん、釣り人としては梅澤徹さんが、このパネルディスカッションに出席されていますが、新聞報道その他では釣り人側の視点からは報道されておらず、今一つ事情が把握できなかったのが現状でした。
 そこで小村漁具の小村憲司さんとお手紙とメールでコンタクトを取ることができ、釣り人側からの視点でご意見を伺う機会を得ました。まずはこのパネルディスカッションでの小村さんの発言内容についてご紹介します。


(ブラックバス再放流禁止についての意見)

 私の家は祖父の代から平田で釣具店を営んでおり、私の子供の頃は街中の船川沿いに家が在りました。そういった環境もあり、その当時はTVゲームもありませんでしたし学校から家に帰ると近所の子らと鮒やなまずを釣って遊んでいたものです。
 その後中学%高校生になるにつれ少しづつ釣りから離れ、進学し、会社勤めをすると30歳で釣具店を継ぐまで釣りから縁のない生活をしていました。今日は釣振興会であるとか業界団体ではなく、そんな私の個人的な意見として述べさせて頂きます。
 さてブラックバスについてですが、私が親やお客様など色々な人に聞いたところでは平田でバスが釣れたのは15年前ほど前、西郷町付近の船川で釣れたのが最初だそうです。この後西郷町の奈良尾池でかなりの数が釣れるようになったことから、池から流れたものではないかと思われます。
 しばらくは地元の小中学生だけの釣り場でしたが7〜8年前に起こった爆発的なルアーブームにより地元以外でも注目され、多くの人が湯谷川や船川を訪れるようになり一般的にブラッバスという生物が認知されるようになりました。
 こうして図らずも有名になってしまったブラックバスですが、はたして湯谷川や船川においてどれくらい環境にダメージを与えているのでしょうか?
 私が地元の釣人の方や漁師さんなどから色々聞いてみた印象では、汽水である関係で宍道湖には深く入っておらず、数自体も5〜6年くらい前をピークに減っている様に思われます。平田市が昨年実施された「外来種生息量及び食性調査」の報告書においてもブラックバスの生息量を約200匹と推定、予想より少ない生息量と報告されておりこのことを裏付ける内容となっています。
 もちろんブラックバスは自分達が生きるために小魚や甲殻類を食べます。そういった意味では在来種にダメージが全くないとは言えないでしょう。私もブラックバスの著しい増加は問題があると思います。
 しかし平田におけるブラックバス問題が、「違法な密放流」によって平田に来てしまった生い立ちや、TVや新聞などのマスコミで言われている、旺盛な繁殖力を持ち、小魚すべてを食べ尽くしてしまうかのような偏った情報、また滋賀県に脅迫文を送った一部のバス愛好家などのイメージをもって語られてしまうとしたらあまりにも短絡的であり乱暴なのではないでしょうか。
 ブラックバス問題の解決方法として一般的によく駆除するということ、再放流を禁止するということなどが出ています。しかしこれらは魚を殺すことと同じ意味だと思います。在来種保護の観点でブラックバスを含む外来種問題を考えるとすれば、護岸などの公共工事のことや、琵琶湖産アユやニジマスなどの放流事業のこと、アメリカザリガニや雷魚などすでに日本に入って時間が経っている外来種のこと、そして平田でのバスの生態や在来種の増減との因果関係など様々な面からこの問題を考え、慎重な調査や研究を行って頂きたいと思います。イージーな問題の結論付けは、本当の在来種保護に結びつかないと思います。
 最近になるまで在来種の保護ということはあまり私達の頭の中になかったと思います。(利水や治水を行う)行政もそうだったと思いますし、釣人のサイドもそうです。その結果バスが罪悪感もなく「移植」されてしまったことは反省しなくてはいけません。
 そういった点では平田市の今回の「在来生態系保護条例」は問題を提起する意味においても効果的なことだと思います。
私も今回のことで釣りについて色々考え、自分自身反省をする面もありました。
 釣りは環境に負荷を与える趣味かもしれません。
 しかしそれで得られる楽しさや癒しも確かに存在します。また釣りを通じて知る自然の大切さや、命の大切さもあると思います。
 「日本人は魚食民族だからキャッチアンドリリースはおかしい。釣った魚は持って帰って食べるべきだ」という考え方の人もいらっしゃいますが、私は食べることのできる数だけキープすれば良いのではないか?と思います。まして自分がそんなに食べない魚を不必要にキープするのは無意味な殺生ではないでしょうか。
 私はブラックバスが平田の守るべき在来種や、漁業に深刻な被害を与えているならば行政や漁協の方が駆除を行われることには反対はいたしませんが、安易に釣人に再放流を禁止してバスを駆除するという考え方には反対です。
(ブラックバスを含めた)ルアーの釣りは、使う道具が少なく(結びなど)仕掛も簡単なため小中学生が川で遊ぶのに今一番適している釣りだと思います。
 大人は他の遠い場所にある川にも行けます。海に行っても良いでしょう。
 だけど子供は近くの川でしか手軽に釣りに行き、自然や生物に親しむことはできません。
 「平田市在来生態系保護条例」により豊かな自然や、生態系が守られるのと同時にそれに親しむことのできる環境を維持し、愛着のもてるふるさとを守って頂きたいと思います。
 私も過去の反省をふまえ、ゴミ問題などを含め啓蒙、活動を微力ながら行っていきたいと考えています。


 小村さんは以上の様に、地元釣具店経営者として、また個人としても中立にご自身のお考えを述べられました。僕はもう少し今の平田市のバスの状況、バサ−の反応、およびこれからどうバサ−が取り組んで行かれるのかを知りたくて、以下の5項目について小村さんにご質問させて頂き、ご回答頂きました。

メールで小村さんに いくつか質問をさせていただきました。
Q1. 新聞記事には、「別に釣り場を移し替える」、「子どもが楽しめる作る。公園機能の一部として考えたい」という太田市長の発言が掲載されていますが、平田市に従来、どのくらいのバス釣り場があって、その中からいくつくらい公認釣り場を作るかについては、もう既に案があがったのでしょうか?
A1. 釣り場は宍道湖に流れ込む河川の下流域と、そこから密放流された農業用の溜め池です。
 溜め池は1〜2年で干されることが多いので安定して釣れる所は無いと言っても良いかもしれません。幾つくらい公認の池を作るかの具体的案やスケジュールは現在出てきていません。

Q2. バサ−から見て納得できる釣り場の数、質を維持できそうなのでしょうか?
A2. 市長はシンポジウムにおいて私の質問に答え「入漁料はとるつもりはなし」と明言されました。しかしバサーの方の納得できるレベルの公認釣り場の質・量とメンテナンスにはかなりの継続的なコストが必要だと私は思います。仮にゾーニングの線でこの問題が解決に向かうとして、誰が主体となってこのシステムを維持するのかが問題になるのではないでしょうか。

Q3. 地元のバサ−の方々の反応は、率直にいかがだったのでしょうか?
A3. 今回のことで実感したのはバサーの方の問題に対する反応がある人とない人がハッキリ分かれているということです。ない人か関心あるが行動することは面倒くさい人が多いのではないでしょうか?

Q4. 太田市長がおっしゃるようなバスの移動については、地元のバサ−の方は協力されるのでしょうか?
A4. 釣り上げたバスの回収ですが、具体的な話がまだひとつもない状態で、バサーの方がどう協力していくのか現時点ではまだはっきりしません。このことはQ2. の公認の釣り場の量・質や、Q3. のバサーの方の関心の度合いなどにかかってくるのではないかと私は思います。

Q5. ここに至るまでに、苦労されたことはどんなことでしょうか?
A5. 一年間ですがこのことに関わってきてネットなどで情報収集したり、店で色んな人と話合ってきましたが、まず感じたことはバサーの方と行政や漁業者の方などとの話がうまく噛み合っていないのでは....ということです。
 分かりにくい表現ですが、例えば「キャッチ&リリース」という言葉ひとつでも、ルアーフィッシングをする者にとっては、これは釣りをすることと密接に絡んでほぼ同意語に近いと思いますが、釣りをしない人たちにとっては釣りは釣り、リリースはリリース、という感じの認識の人が多いような気がします。ですから「キャッチ&リリースの禁止」がなぜバサーにとって問題なのかが理解されていません。
 またバサーの方も漁業者の方や地元の住民の方の受けてる痛みの部分まで理解した上でバス擁護を述べる方は少ないと思います。そのため議論がうまく噛み合わず前に進んでいかない。そんな気がしました。
 今回苦労した点を強いて挙げるとすれば上記のギャップをいかに解消するか。ということとバサーの方の関心度をあげることの2点ではないでしょうか。

 実は今回のこの情報を聞いた時、「自治体がゾーニングについて了解するなんて!しかも市長自らの発言で!すごいなぁ。」と、僕は単純に喜んでいました。しかし現実はどうも単純には喜んでいられないようです。小村さんは、今後、このようなプランを進めて行くに当たり、次のような問題点を指摘されています。

 『シンポジウムが開かれ、全国にこれまた先駆けて公認釣り場について行政が言及したことは成功なのかもしれませんが、これからが勝負だと思います。
 「在来種保護のためのバス再放流禁止+公認釣り場」セットは時流に乗ったアイディアだと思いますが、この島根県や平田市のような人口の少ない地方自治体で実現するのはかなり難しいのではないか、と私は思います。
 私が懸念するのは、(1) 溜め池幾つか地権者から提供してもらい公認釣り場を作った。(2) 最初はアングラーも魚持っていった。(3) 予算がないので餌の確保や釣り場のメンテナンスはしなかった。(4) 次第に釣れなくなり誰もいかなくなり大人は県外の釣り場に、子供はバス釣りをやめゲームに熱中するようになった。(5) こうして釣れない池と、釣ってはいけない川が残ることになりました.....。 』

 十分、起こりうる最悪のシナリオではないでしょうか?
 この最悪のシナリオを避けるには、コストの確保と、管理者など人員の確保は必要不可欠です。太田市長はこの釣り場運営に当たっては、入漁料は徴収しないとおっしゃっているようですが、現実、バス釣り場としての質を確保することはもちろん、他の水域への持ち出し防止などの管理面にいても、コストおよび人員は必要であり、その源泉としてのなんらかの収入は必要だと思います。
 地元の事情をわきまえない勝手な僕の意見ですが、住宅開発などで農業用には使用しなくなった溜め池を管理者の方から借り受け 、有志バサ−の方を中心に入漁料などの管理を行いながらメンテナンスを行うということも必要ではないかと考えています。
 いずれにしても、もっと地元のバサ−の方々が全面に出て、太田市長を含む自治体との折衝を行うべきだと思います。このようにある意味、先進的な政策を導けたわけですから、どうかより良い釣り場そして健全な形でのバスフィッシング実現に向けて、多くのバサ−の参画が望まれるところでありましょう。
 最悪のシナリオを避けるために.....。


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