揺れる諏訪湖 〜バス問題の本質と今後、バサ−が取るべき道を考える〜

 長野県諏訪湖が今、揺れています。ワカサギを観光・漁業の資源としている同湖にバスが繁殖し、在来魚を食べて既存の生態系に影響を与えるとの理由で駆除が進められています。その諏訪湖を巡る、県、漁協、釣り人、地域住民へ広がる波紋を取り上げ、信濃毎日新聞(諏訪地方版)は2001年12月13日から20日、5回に渡って「ブラックバス論争〜波紋広がる諏訪湖〜」と題して紹介しています。駆除側からのみの視点で論じられる新聞記事が多い中、釣り人側の意見や、教育の現場に及ぼす影響までの幅広い視点で諏訪湖のブラックバス問題について取り上げています。


釣り人側に募る県や漁協への不信感

 毎年20億粒余のワカサギの卵を全国に供給する諏訪湖漁協は、2001年5月、「外来魚被害緊急特別会計」として県の補助金を含む500万円を計上、バスの駆除に本格的に乗り出しています。11月末までに捕獲して持ち込んだバスの数は98,000匹余。総重量は2トン半にも上っています。駆除に要した費用は1000万近くになり、補助金は8月上旬に使い果たしてしまったとか。漁協は捕獲したバスを県水産試験場諏訪支場に持ち込んで冷凍処理した後、町内の生ゴミリサイクル業者「ドミソ環境」に処理を委託、同社は残飯などとともに発酵処理して、たい肥にしているそうです。
 信濃新聞の記事に紹介されている県水産試験場諏訪支場の武居主任研究員は、多いときは週5回、少なくとも1,2回はバスを解剖し、胃の内容物を調べてきたそうです。「しっぽからワカサギに食いつき、頭の部分を消化しないまま捕獲されたバスもよく見る」と、バスがワカサギを食っていると記事の中で紹介されています。
 県や漁協が駆除進める一方で、「バスを観光資源にできないか?」、そんな声が釣り人からあがっています。それに対して漁協は「諏訪湖ではもうバスを釣らせない」という意思表明をし、昨年から遊漁規則を改正、リール釣りを禁止してしまいました。これを徹底するために、昨年9月上旬、県諏訪地方事務所が諏訪市町村の観光関係者や漁協、釣り船組合、釣具店経営者らを集めて会を開きました。釣り人からは当然、「リール釣りを禁止したのは遊漁の不当制限だ」、「ワカサギだってもともとは外来魚ではないか」と反発が出ました。岡谷市でらんかぁ倶楽部という釣具店を経営されている真嶋氏(現FB's Societyメンバー)は、「『密放流』という言葉で(バスの数を急増させた)犯人を意図的に作り出そうとしている」と、県や漁協への不信感をあらわにしておおり、この記事の中でも発言が紹介されています。


諏訪湖のバス拡散は本当に釣り人の密放流によるものなのか?

 諏訪湖のバスはなぜこにように急増したのでしょうか?
 急激に増えた様子を、記事の中ではこう紹介されています。
*******(以下抜粋)*******
 長野県諏訪湖では過去に移植されたが現在は生息していないとされている.....。1992年、全国内水面漁協連合は、報告書「ブラックバスとブルーギルのすべて」にこう記した。
 県水産試験場諏訪支場によると、諏訪湖で捕獲されたバスはその後も年間数匹で、ゼロの年もあった。97年はやや増えて約20匹。98年は約20匹、99年も約70匹だった。だが昨年は約10000匹と驚異的に増えた。
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 確かに1999〜2000年の間の数は驚異的な増え方です。漁法、捕獲時期、漁の回数、漁にでた人数がもし一定ならば(この記事の中では、詳細は紹介されていません)、1999年と2000年の1年間でいったい何が起こったというのでしょうか。

 先述の武居主任研究員は主たる原因が密放流による可能性が高いとみているそうです。その根拠については、次のように紹介されています。
 まず、97年12月、産卵期ではないのに稚魚が十数匹もまとまって見つかったこと。そしてもう一つ、昨年6月、背ビレに目印の「タッグ」を付けられた体長約30cmのバスが捕獲され、通常、「タッグ」は研究や釣りゲームで成魚に付けることが多いものとして、これも「密放流」を疑わせる要素として記事に紹介されています。
 バスの急増が釣り人などによる「密放流」によると言われる一方、県漁業調整規則が93年、バスの移植禁止を罰則付きで規定し、県内水面漁場管理委員会も今年3月、水域からの外来魚持ち出しを禁じる指示を定めている背景も踏まえながら、先述の真嶋氏は「バス釣りが禁止された諏訪湖に、捕まる危険を冒して密放流するメリットはあるのか」と紙面上で反論されています。
 記事ではさらに新たな可能性として琵琶湖産ワカサギの放流にバスが混入していた可能性についても触れています。
 漁協は99年、近親交配を防ぐため琵琶湖産のワカサギ約150kgを諏訪湖に放流しています。釣り人の間には、この中に「バスの稚魚が大量に交じっていたのではないか」とする声が根強いのだそうです。こういった推論に対して、漁協の中沢章専務理事は「ブラックの稚魚が交じっていたことは肯定も否定もできない。だが仮に150kgすべてがブラックだったとしても、こんなに急に増えるだろうか」と首をかしげ、県水産試験場諏訪支場も「琵琶湖のような大きな湖ではワカサギとバスの生息域が分かれており、交じる可能性は低い」としています。
 諏訪湖のバスが密放流で広がったのか、それとも他の魚に交じって放流されたのか? 今となっては真実を探り当てることは難しいのかもしれません。
 この琵琶湖からの生きたままのワカサギ放流については、当時、長野日報でも報じられています(長野日報1999年7月5日)。この記事の中では、当時常識破りだった生きたままのワカサギ放流を画期的な漁業法と紹介しながら、「利点は、卵の場合はふ化しないものもあって効率が悪いが、稚魚はその年の冬の採卵もでき即戦力になる。一方、大きな不安点はワカサギ以外の、特にブラックバスなどが混入すること。」と、現在争点となているバスの混入に関しては、この時すでに明らかになっていたことであり、このリスクを顧みずに
諏訪湖漁協は生きたままのワカサギ放流に踏み切ったものと推測されます。この点ではまだまだ疑問が残るところでありましょう。


諏訪湖のバスの利用は考えられないのか?

 広まってしまった諏訪湖のバスがいかに地元漁業に影響を及ぼしているかについても、記事中では触れられています。特にエビ(テナガエビとスジエビ)は、1995年頃から約10年間、年間漁獲高が1トン前後だったのに対し、90年代は3〜4トンで推移している。97年はエビが好む水草が増えて約4.5トンにまでなったが、2000年度は2.7トンに激減。2001年度はさらに下回る見込みだそうです。諏訪湖は全体的に浅く、バスとワカサギの生息域が重なり、先述の武居氏は「食べ尽くされてバスポンドになってしまう」と危惧しているそうです。
 諏訪湖がワカサギを観光・漁業の資源としているということは冒頭でも触れましたが、この記事ではバスフィッシングも観光資源として役立たないか、またバスフィッシングの経済効果ということについても言及しています。
******(以下抜粋)******
 諏訪湖でのバス急増を逆利用し、湖周辺の観光を盛り返せないか、と考える人もいる。諏訪市でボート免許の教室を開いている森山広さんもそんな一人だ。
 諏訪湖だけで年間四百人近いボート免許資格試験の受験者がいる。その約七割はバス釣りが主な目的だからだ。「インタ−からのアクセスはいいし、温泉、ホテルもある。解禁したらいっぱい人が来るのにね」。客からはそんな声も聞く。
 釣り大会などで賞金を稼ぐ「バスプロ」といわれる釣り人たちもいる。森山さんは、こうした釣り人を呼び、バス釣りができないか─と考える。その際、諏訪湖漁協の遊漁規則で禁じられたリールは使わない予定だ。
 「最初から『駆除ありき』ではなく、バスについて一から考えてみたい。駆除のための補助金を増やしても何もうまれないのではないか」と、バス論議に一石を投じる考えだ。
 農林水産省のまとめだと、全国の河川や湖沼などの漁業・養殖業生産額は六百二十二億円余(2000年度)。一方、日本釣用品工業界(東京都)によると、ルア−などバス釣り用品の売り上げは六百三十六億円余(1999年度)。ほぼ同じといえる数字だ。
 だが、右肩上がりを続けていたバス釣り用品の売り上げは、98年の七百六十二億円をピークに下降線をたどり、2000年は「六百億円を切る見込み」(事務局)。釣り具店からは「バスブームは下火になった」との声も出ている。
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行政の動き

 現在のところ、バスをめぐっては国土交通省や環境省は「既存の生態系を壊す外来種」として駆除を基本姿勢にしています。一方、水産庁は河口湖など山梨県の三湖と神奈川県の一湖を、バスを漁業権の対象魚種とした「公認バス釣り場」にし、ほかの湖沼では駆除を提案しています。今回御紹介した諏訪湖のある長野県は、「従来からの駆除の姿勢に今後も変わりはない」としています、各漁協の対応はそれぞれ違っているようです。
 野尻湖漁協は95年に、「網を破る」などの理由で禁じていたルアー釣りを解禁しています。またその後、現在もバスの駆除は行っていません。
 木崎湖漁協は駆除が基本姿勢で、バス釣り大会、バス料理の試食会を開き、駆除と観光を両立させるための試行錯誤を重ねている最中であります。
 今後の諏訪湖の動きは当然、野尻湖や木崎湖にも影響を及ぼすでしょう。もちろんこれは長野県内に限らず、広く全国各地に影響を及ぼす可能性もあります。琵琶湖を擁する滋賀県、1999年にいち早くバスのリリース禁止を決めた新潟県に並ぶバス問題の過熱した県、長野.....。FB's Societyはこれからもこの諏訪湖の行方を追っていきます。
 この記事のご紹介を読んで、すでにお気付きの方もいらっしゃると思いますが、今回の諏訪湖の例はけっして稀なケースではありません。日本全国に同じ状況の湖が必ず存在しているはずです。
 琵琶湖ではご存知のように、琵琶湖総合開発の後、琵琶湖の汚染状況やそれが及ぼす魚類などの生態系の調査などがいっさいなされて来なかったことは、昨年2月に立教大学で行われた公開討論会の中で東京水産大の水口氏が指摘している通りで、この諏訪湖のケースにおいても、バスがワカサギを食っているという事実は確認されているものの、果たして漁獲高が減少した場合の原因が水質汚濁にあるのか、バスにあるのかの詳細な検討はなされていません。つまりバスが本当にこの諏訪湖では「害魚」であるのかという検証がなされていないということです。しかし、いるはずのないアメリカの魚「ブラックバス」が原因ははっきりとはしないにせよ、現在、諏訪湖にいること自体がすでに問題で、かつ現にワカサギが食われているということは、将来ワカサギ漁に多大な影響を及ぼす危険性をはらんでいるということが問題視されているのです。そういった背景の中で、釣り人側は観光的収入の面などを通してバスの容認を要望し始めているのです。果たして、今後、諏訪湖では引き続き「全面駆除」で押し通すのか?それとも遊漁の対象魚として認めて行くのでしょうか?
 この状況って、やっぱりどこかで聞いたことのある話ではありませんか?
 お互いに反論し合い、(時間的に経済的に)検証できるはずもない根拠、つまり駆除側の「バスは在来の魚や漁業権魚種など(諏訪湖の場合はワカサギ)を食い尽くす」、擁護側の「食い尽くすはずはない」、をぶつけあったとしてもなんら話が進まず、一方通行に終わるということも良くある話ではないですか。


バス問題の本質を考えた時、バサ−の取るべき道は.....?

 この諏訪湖の例をもって、改めて我々の抱えているバス問題の本質を考えてみたとき、今、バス問題解決のためのもっとも重要なことは、あらゆる立場の人が話合い、そして歩み寄りを行うことではないでしょうか?
 今回の諏訪湖の例で言うなら、この湖で例えバスを排除する方向で進めるにしても、釣り人と漁協、県、地域住民がそれぞれの意見を話し合い、納得のいくコンセンサスを取るべきだと思うのです。釣りを楽しみたいと言う人がいる中で、一方的にバスを駆除したり、リール釣りを禁止して(どちらの意見が今後の諏訪湖のために良いか、ということは別にして)、果たして釣り人が納得するのでしょうか。また逆に釣り人側は、正しい方法で彼らに意見を陳情したのでしょうか。県に訴えたのでしょうか。
 例え「全面駆除」を推し進めて行くにしても、この過程を踏むだけでいかにスピードアップできることでしょうか。そしてバス釣りを受け入れてもらうなら、しかるべき手段を講じながら進めて行くべきだと思うのです(諏訪湖ではすでに始められているかもしれませんが)。
 我々バサーも今、大きな「変革」を求められています。
 この記事でも紹介されていた「(法律などによる)上からの押しつけは解決に向かない。釣り人側からのアプローチも求められる」(琵琶湖湖沼会議にて。科学技術振興事業団の淀太我研究員)というコメントは、今まさに我々バサーに求められている「変革」ではないでしょうか。
 八郎潟でNPO法人として活動されているH.E.V.E.N (http://www.eastone.jp/heven/index.html)は、まさに様々な問題に対し折衝を行っています。先進的なバサーの目指すべき行動の一例であると僕は考え、注目しています。
 行政に、漁協に、そして観光関係者あるいは地元の方々に、バサーとして何かまとまった提案ができる形を整えたいですね。
 我々FB's Societyはこのような力の源になる「ムーブメント」作りの一助を担えれば、と考えています。一人一人の意見ではなかなか行政を動かすことはできませんが、みんなで話し合った意見をまとめれば、それはきっと大きな力になるはずです。


文責:佐藤 元章(FB's Society)

(※なおこの内容は「BassFishing 虎の穴!」で使用したものを一部手直しして使用しております)


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